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東京地方裁判所 平成元年(ワ)12748号 判決 1992年11月04日

原告

小田切照茂

小田切咲子

小田切一照

有限会社オダブックス

右代表者代表取締役

小田切照茂

右原告ら訴訟代理人弁護士

梓澤和幸

岡崎敬

被告

王子信用金庫

右代表者代表理事

大前孝治

右訴訟代理人弁護士

北原雄二

主文

一  被告は原告小田切照茂に対し金四二円、原告有限会社オダブックスに対し金四三六円及びこれらに対する平成元年一〇月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告小田切照茂、同有限会社オダブックスのその余の請求及び原告小田切咲子、同小田切一照の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告らの負担とする。

四  この判決は第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告小田切照茂(以下「原告照茂」という)に対し金二七三万四八六九円、原告小田切咲子(以下「原告咲子」という)に対し金六三六万三四九六円、原告小田切一照(以下「原告一照」という)に対し金二五二万八〇八四円、原告有限会社オダブックス(以下「原告会社」という)に対し金八〇万二五九六円及びこれらに対する平成元年一〇月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求一(預金等の払戻し等)

1  請求原因

(一) 原告らは、被告に対し、別紙定期預金・定期積金目録記載のとおり、同目録記載の日に同目録記載の金額を、定期預金として預け入れ、あるいは定期積金の掛金として払い込んだ。

(二) よって、原告らは、被告に対し、消費寄託契約に基づく払戻し及び定期積金契約に基づく給付契約金の支払いとして、原告照茂は合計一四七万二一二七円、原告咲子は合計四一〇万二〇二六円、原告一照は合計二五二万八〇八四円、原告会社は六〇万円及びこれらに対する訴状送達の日の翌日である平成元年一〇月六日から支払済みまで民法所定年五分の割合による各遅延損害金の支払いを求める。

2  請求原因に対する認否

認める。

3  抗弁

被告は、原告らに対し、以下のように、すべて払戻し等をしている。

(1) 別紙目録記載①の定期預金は、満期後の昭和六〇年五月三〇日に払い戻した(普通預金に入金した)。

(2) 別紙目録記載②の定期預金は、満期である昭和六一年九月一七日に払い戻した(普通預金に入金した)。

(3) 別紙目録記載③の定期積金は、満期後の昭和五八年八月二三日に支払った(給付契約金六一万三三五一円のうち、五〇万円を振り替えて定期預金とし、残金一一万三三五一円を現金払いした)。

(4) 別紙目録記載④の定期積金は、満期後の昭和五八年九月一日に給付契約金四八万九六七五円(掛金総額四八万円)を現金払いした。

(5) 別紙目録記載⑤の定期積金は、満期後の昭和五六年一〇月七日に給付契約金四九万五四三八円(掛金総額四八万円)を現金払いした。

(6) 別紙目録記載⑥の定期積金は、満期後の昭和五七年九月一日に給付契約金六一万三八三九円(掛金総額六〇万円)を現金払いした。

(7) 別紙目録記載⑦の定期積金は、満期後の昭和五七年九月一日に給付契約金三六万八三〇三円(掛金総額三六万円)を現金払いした。

(8) 別紙目録記載⑧の定期預金は、昭和五七年一一月二四日に中途解約され、利息と合わせて四九万三〇五二円を現金で払い戻した。

(9) 別紙目録記載⑨の定期預金は、満期である昭和五八年五月一二日に払い戻した(利息を合わせて一二一万一五五〇円のうち、二〇万円を手形貸付金の返済の一部に充て、残額一〇一万一五五〇円を現金払いした)。

(10) 別紙目録記載⑩の定期積金は、満期後の昭和五九年八月一〇日に給付契約金六一万二二八二円(掛金総額六〇万円)を現金払いした。

(11) 別紙目録記載⑪の定期預金は、満期後の昭和五九年九月一六日に払い戻した(利息を合わせて六四万八九五七円のうち四〇万円を預手の資金にあて、残額二四万八九五七円を現金払いした)。

(12) 別紙目録記載⑫の定期預金は、昭和五九年一一月二六日に中途解約され、利息と合わせて四〇万〇〇八二円を現金で払い戻した。

(13) 別紙目録記載⑬⑭の定期預金は、いずれも満期後である昭和六〇年一一月二一日に払い戻した(一〇〇万円を五〇万円の定期二口として、残額二六万七四〇三円を現金払いした)。

4  抗弁に対する認否

すべて否認する。

二  定期積金掛金支払いによる不法行為

1  請求原因

(一) 原告照茂は、被告赤羽支店の従業員吉田裕彦(以下「吉田」という)に対し、昭和六二年一二月二日、原告照茂、原告咲子、原告会社名義の定期積金一一口の一一月分掛金として合計五七万二七〇〇円を支払い、同月二六日には一二月分掛金として同額を支払った。

(二) 右吉田は、右各支払いの際、各人名義の定期積金通帳一一冊の一一月分欄と一二月分欄に受領印を押しながら、同月三〇日、原告会社を訪れ、原告照茂から各人の印鑑を借りて、右各欄の中間に押印し、更に右通帳を預かったうえ前記受領印を二本線で抹消しの印を押した。これは二か月分の定期預金の支払いを受けながら、一か月分の支払いしかなされていないかのように表示したものである。

このため、右原告ら三名は、一二月分の掛金を二重に支払う結果となり、原告照茂二六万二七〇〇円、原告咲子一三万円、原告会社一八万円の各損害を受けた。

(三) 右は、吉田が被告の事業の執行につき、原告らに対し故意に与えた損害であるから、原告ら三名は被告に対し、原告照茂二六万二七〇〇円、原告咲子一三万円、原告会社一八万円の各損害金及びこれらに対する訴状送達の日の翌日である平成元年一〇月六日から支払済みまで民法所定年五分の割合による各遅延損害金の支払いを求める。

2  請求原因に対する認否

(一) 請求原因(一)のうち、原告照茂が、被告赤羽支店の吉田に対し、昭和六二年一二月二日と二六日にそれぞれ五七万二七〇〇円を支払ったことは認めるが、その趣旨は否認する。

(二) 同(二)のうち、吉田が定期積金通帳一一冊の各一一月分欄と一二月分欄に受領印を押したが、後日その欄に原告らの印をもらったうえ、右通帳を預かって前記受領印を二本線で抹消しての印を押したことは認め、その余は否認する。

吉田は、原告照茂から、同月二日、当初定期積金一一口分として五七万二七〇〇円を受領したが、原告会社の当日の当座資金が不足したため右定期積金の入金を取り消し、これに五万円を加えた六二万二七〇〇円を当座預金に入金した。その際、吉田は、定期積金の通帳の受領印を消すのを忘れてしまい、さらに、同月二六日に原告照茂から定期積金一一口分五七万二七〇〇円を受領した際にも右消し忘れに気づかず、その金員を一一月分とすべきであるのに一二月分として処理してしまったものである。その後、吉田は右誤りに気づき一二月分を一一月分に訂正する必要が生じたので、原告照茂に事情を説明し、納得してもらって訂正した。印は訂正をする際に必要となる上司の決裁印である。

(三) 同(三)は争う。

三  昭和六〇年度分の固定資産税をめぐる不法行為

1  請求原因

(一) 原告照茂は、被告赤羽支店従業員の森茂幸(以下「森」という)に対し、昭和六〇年五月三〇日、原告咲子名義で、固定資産税等支払いの為、合計五四万八八九〇円を現金で交付した。

(二) ところが、右入金は原告咲子の口座に記帳がなく、前記税金の支払いは、同人口座からの振替で行われている。したがって、現金で交付した(一)記載の五四万八八九〇円は、その支払先ないし入金先が不明であり、原告咲子は右同額の損害を受けた。

(三) 右は、森が被告の事業の執行につき、故意または過失によって、原告咲子に与えた損害であるから、原告咲子は被告に対し、右損害金五四万八八九〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成元年一〇月六日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

2  請求原因に対する認否

(一) 請求原因(一)は否認する。

森は、昭和六〇年五月二九日、固定資産税等の支払いを普通預金からの振替納付で処理して欲しいと依頼された。ところが、同日の普通預金口座の残額は七一九四円で右支払いに不足しており、同月三〇日に定期預金五三万一〇四一円を普通預金に振替入金したが、まだ固定資産税等の額に足りなかったので、同月三一日に二万円を原告らから現金で預かり、それを普通預金に入金し、同日右口座から固定資産税等を振替納付した。

(二) 同(二)のうち、原告咲子口座からの振替で前記税金の支払いがなされていることは認め、その余は否認する。

(三) 同(三)は争う。

四  昭和六一年度分の固定資産税等の支払いをめぐる不法行為

1  請求原因

(一) 原告咲子、原告会社は、被告に対し、昭和六一年度分の固定資産税等の支払いのため合計六〇万四七四〇円の現金を交付した。ところが、右固定資産税はこれとは別に、同人等の預金口座から引き落とされて納付された。なぜなら、固定資産税等の領収書には、口座引き落としの時には領収印が押されることはなく、現金払いの時には領収印が押されるところ、昭和六一年度分の固定資産税等の領収書には、領収印が押されているので現金払いと判断できるからである。

(二) これによって、原告咲子、原告会社は、昭和六一年度分の固定資産税を二重払いしたことになるので、原告咲子は五八万二五八〇円、原告会社は二万二一六〇円の損害を受けた。

(三) よって、原告らは被告に対し、被告従業員の故意または過失による不法行為に基づき、原告咲子は五八万二五八〇円、原告会社は二万二一六〇円及びこれらに対する訴状送達の日の翌日である平成元年一〇月六日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

2  請求原因に対する認否

(一) 請求原因(一)のうち固定資産税等の振替納付の点は認め、その余は否認する。固定資産税等の領収書には、領収印は現金でも口座引き落としでも押捺されるのであって、本件では現金支払いの事実はない。固定資産税等の支払いは、原告照茂名義の普通預金から自動振替によってなされただけである。

(二) 同(二)は否認する。

(三) 同(三)は争う。

五  無断定期預金口座開設の不法行為

1  請求原因

(一)(1) 昭和六一年四月一五日付けで原告照茂の普通預金口座から一〇〇万円が振り替えられ、同原告名義の定期預金が設定されている。

(2) しかし、右定期預金の設定は、前記森が原告照茂に無断で行ったものである。仮に原告照茂の承諾があったとしても、右定期預金を設定すると次に述べるように原告照茂が損害を被ることになるのであるから、森は右定期預金の設定にあたり、このことを十分説明すべき注意義務があったのに、これを怠った。

(3) これによって、原告照茂の前記普通預金口座の残高は、四〇万九六三一円のマイナスとなり、原告照茂は、右口座の残高がプラスに転ずる同月三〇日までの間に、右四〇万九六三一円に対してオーバーローンの利率と定期預金利率との差である年利0.25パーセントを乗じた金額である四二円の損害を受けた。

(二)(1) 昭和六三年二月一二日、原告会社の当座預金から一〇〇万円が引き出され、同日これにより原告会社名義の定期預金が設定されている。

(2) しかし、右定期預金の設定は、前記吉田が原告代表者である原告照茂に無断で行ったものである。仮に原告照茂の承諾があったとしても、右定期預金を設定すると次に述べるように原告会社が損害を被ることになるのであるから、吉田は右定期預金の設定にあたり、このことを十分説明すべき注意義務があったのに、これを怠った。

(3) これによって、原告会社の前記当座預金の残高は六二万四四四一円のマイナスとなり、原告会社は、昭和六三年二月一二日から当座預金の残額がプラスに転ずる同月一五日までの間に、右六二万四四四一円に対して当座貸越の年利(一二パーセント)と定期預金利率(3.49パーセント)との差である年利8.51パーセントを乗じた金額である四三六円の損害を受けた。

(三) 右は、森及び吉田が被告の事業の執行につき故意または過失によって原告らに与えた損害であるから、原告らは被告に対し、原告照茂四二円、原告会社四三六円の各損害金及びこれらに対する訴状送達の日の翌日である平成元年一〇月六日から支払済みまで民法所定年五分の割合による各遅延損害金の支払いを求める。

2  請求原因に対する認否

(一) 請求原因(一)(1)は認める。同(2)は否認する。原告照茂は、森の定期預金獲得の協力要請に応じ定期預金の設定を承諾していた。同(3)は否認ないし争う。

(二) 請求原因(二)(1)は認める。同(2)は否認する。原告照茂は、定期預金の設定を承諾していた。同(3)は否認ないし争う。

(三) 請求原因(三)は争う。

六  預金の無断操作等の不法行為(慰謝料の請求)

1  請求原因

(一) 前記一ないし五の各請求原因事実に加えて、被告は以下のように預金等を無断で操作する不正行為を行った。

(1) 被告の従業員小倉義夫(以下「小倉」と言う)は、昭和五八年五月二日から同年九月二九日までの間に、原告照茂の承諾を得ず、二三〇万円の金員を原告照茂の定期積金から原告会社の通知預金に、更に同名義の定期預金に、そして、同名義の別の定期預金に振り替えた。

(2) 被告の担当者小倉は、昭和六〇年六月四日付けで、原告照茂の承諾を得ずに、同人の普通預金口座から原告会社の同口座に三四万円を振り替えた。

(3) 昭和六一年一二月三一日、原告照茂の定期預金が無断で総合口座に変更されていた。

(二) 原告らは、長年にわたる取引を通じて多大な信頼を寄せていた被告の前記不正行為及び事後の不誠実な対応によって、重大な精神的損害を受けた。

その損害額は原告照茂において一〇〇万円、原告咲子において一〇〇万円を下らない。

(三) よって、原告照茂及び原告咲子は被告に対し、被告従業員の故意または過失による不法行為に基づき、それぞれ一〇〇万円の慰謝料及び訴状送達の日の翌日である平成元年一〇月六日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

2  請求原因に対する認否

(一) 請求原因(一)の(1)(2)(3)のうち口座が振り替えられたことは認め、承諾を得ていないとの点は否認する。

(二) 請求原因(二)、(三)は争う。

第三  証拠<省略>

理由

一原告ら作成名義文書の成立等について

1(一)  本件においては、原告ら作成名義の預金払戻請求書、受取証、受領取次依頼書、受領書等が主要な証拠となっているところ、これらのうちには原告らが成立を認めているものもあるが、その多くの成立が争われているので、共通する問題として、まず右各文書の成立等について検討しておく。

(二)  原告照茂本人尋問の結果、原告咲子の各本人尋問の結果及び<書証番号略>、証人森の証言(以下「森証言」という)及び<書証番号略>、証人小倉の証言(以下「小倉証言」という)及び<書証番号略>、証人吉田の証言(以下「吉田証言」という)によれば、前記各文書に押捺された印影は、すべて、原告らの印章によるものであり、押印は、被告の担当者である小倉、森、吉田らが、原告宅を訪問した機会に、原告らの面前でなされ、被告の担当者が印章を預かったことはなかったことが認められる。そして、押印は、必ずしも原告ら自身によってなされたわけではなかったが、被告の担当者の手で押印された場合でも、原告照茂においては、いかなる文書に押印されるのかを見て認識していたことを認めているから、同原告の意思に基づく捺印が存在する文書として、真正の推定を受けるべきものである。また、原告咲子の場合も、「被告担当者を信頼して言われるままに印章を渡し、何に押すのか余り見ていなかったうえ、ときにはお茶を入れたりするため担当者らに背を向けることがあった」として押印される文書について殆ど認識がなかったように供述してはいるが、原告咲子の供述は、後記のように同原告が自署したものと認められる文書につき、自署を否認するなど全面的には採用できない部分を含んでおり、いずれにせよ各文書は原告咲子の面前で作成されているのであるから、捺印が同原告の意思に基づくものと推認を妨げるべき事情はなく、したがって、原告照茂の場合と同様、真正な文書の推定を受けることになる。

(三)  次に、署名については、原告の署名を被告担当者が代筆しているものが多い(<書証番号略>)。受領証等の署名を支払側の者が代筆することは文書の証明力に問題を残す点で好ましくないが、前掲証拠によれば、本件の場合、原告らの依頼によりその面前で被告担当者が代署しているのであって、原告らの意思に基づくものと認めてよい。したがって、本件における代署は、本件受領書等の真正を推定する根拠となり得る(もっとも、右捺印による推定で十分である)。

なお、<書証番号略>には捺印がないが、その署名は、原告咲子が自署したものと認められ(<書証番号略>、同原告の本人調書に添付された宣誓書及び出廷者カードの署名との対照)、これに反する原告咲子の本人尋問の結果は信用できない。したがって、これについても、成立を推定することができる。

(四)  前掲証拠によれば、原告一照名義の定期預金及び定期積金については、原告照茂及び原告咲子が被告との対応を全面的に委ねられて金銭の授受及び受領書等の作成にあたっていたものと推定されるから、原告一照作成名義の受領書等についても、同様に成立を認定することが可能である。

(五)  ところで、原告らは、金銭の授受に先立って署名押印がなされたケースがあったとする小倉の供述等を根拠に、署名押印のある受領書等が作成されていても、金銭等の受領があったことの証拠にはならないと主張する。右小倉の供述はどのような場合のことを述べているのか明確ではないが、いずれにしても原告らの承諾のもとにすべての手続がとられたことを前提とする供述であって、受領書等に見合う金銭の授受等が不存在であったかもしれないことを認めた趣旨の供述でないことは明らかである。小売業を営む原告らが、金銭の授受に関する文書の作成について内容も確かめず、すっかり被告担当者任せにするほどルーズであったとはとても思われないうえ、原告照茂の供述によれば、原告らが現金を受領していないと主張しているのは現金を入れる封筒が保存されていなかったケースであるが、他方で封筒がなくなったものもあることを認めているのであって、根拠薄弱というほかない。本件において、受領書等の証明力を否定するだけの事情はないというべきである。

二預金等の払戻し等の請求について

1  請求原因について

請求原因事実は、当事者間に争いがない。

2  抗弁について

(一)  別紙目録①の定期預金

<書証番号略>によれば、昭和六〇年五月三〇日に、①の定期預金五三万一〇四一円(元本五一万二一二七円)は満期払いとして普通預金(原告咲子名義・口座番号〇三―〇五六九三―一)に入金されたことが認められ、原告照茂も本人尋問でこれを認めている。

(二)ないし(一二)<省略>

(一三) 別紙目録⑬、⑭の定期預金

<書証番号略>によれば、昭和六〇年一一月二二日、⑬の定期預金六三万〇五六七円(元本五一万九一四一円)と⑭定期預金六三万六八三六円(元木五三万一八三三円)が満期で払い戻され、うち一〇〇万円が五〇万円の定期二口とされ、残金二六万七四〇三円が現金で支払われたことが認められる。

3  以上の認定を覆すに足りる証拠はなく、別紙目録記載の定期預金及び定期積金は、すべて原告らに弁済されているから、その払戻し等の請求はいずれも理由がない。

三定期積金掛金の支払いに係る不法行為の主張について

1  <書証番号略>、吉田証言及び原告照茂本人尋問の結果によれば、以下の事実が認められる。

(一)  原告照茂は、吉田に対し、昭和六二年一二月二日、原告照茂、原告咲子、原告会社名義の定期積金一一口の一一月分として、合計五七万二七〇〇円を交付し、吉田は、一旦は各人名義の定期積金通帳一一冊の一一月分欄に受領印を押した。

(二)  ところが、その後、原告会社の当日の当座資金が不足することが判明したため、右定期積金の入金を取り消すこととし、五万円を足して六二万二七〇〇円を右当座預金に入金した。

その際、吉田は、定期積金の各通帳の受領印を消すべきであったのに、これを失念した。

(三)  原告照茂は、吉田に対し、同月二六日、前記各定期積金の一二月分として、合計五七万二七〇〇円を支払った。その際、吉田は前記消し忘れに気づかず、本来、一一月分に充当すべきであるのに一二月分として同日欄に受領印を押すなどの処理をした。

(四) その後、回数処理の誤りが発見され、前記定期積金通帳の記載を訂正する必要が生じたので、同月三〇日、吉田は原告照茂に事情を説明して右通帳一一冊の一一月分欄と一二月分欄の各中間に捺印をもらい(実際の押印は吉田が行ったものと思われるが、前記一1(二)記載のとおり、原告照茂は押印の趣旨を認識していたものと認められる。このような異例の押印をすることについて、その理由を聞きもしなかったとの原告照茂の供述は信用できない。)、更に右通帳を預かり、前記受領印を二本線で抹消して、上司がの決裁印を押した。そして、一一月分欄には改めて一二月二六日付の受領印が押され、一二月分以降も当該日欄に受領印が押されているが、この間原告らから被告に対し異議が述べられた形跡はない。

(五)  なお、<書証番号略>と<書証番号略>との間で、紙幣等の種数別の枚数に不一致があるが、吉田の証言によれば、これは同人が<書証番号略>に右枚数を正確に打ち込まなかった故と推認される。

2  以上認定の事実によれば、担当者である吉田の事務処理に不手際があり、これが事後的に原告らの不審を招く原因となったことは否めないものの、原告照茂が一二月二日に支払った五七万二七〇〇円は、原告会社の当座預金の不足分に充てられたことが明らかであるから、掛金の二重払いは認められない。

よって、本件不法行為の主張は理由がない。

四昭和六〇年度分の固定資産税等の支払いをめぐる不法行為の主張について

1  <書証番号略>によれば、森は、昭和六〇年五月二九日、原告咲子等が納付すべき固定資産税等の支払いを原告咲子名義の普通預金からの振替納付で処理することを依頼されたが、右預金口座には七一九四円しか残額がなく、支払いに不足していたこと、そこで、森は、同月三〇日に原告照茂の定期預金五三万一〇四一円(別紙目録①の定期預金)の払戻金を右預金口座に振替入金したが、それでもまだ不足していたので、同月三一日に二万円を原告らから現金で預かり、右預金口座に入金し、同日、右預金口座から固定資産税等五四万八八九〇円を振替納付した(右振替納付の点は争いがない)ことが認められる。

もっとも、<書証番号略>は、五月三〇日付の領収印が押された後、これが抹消されているが、森証言によれば、同月三〇日振替納付の処理をしようとした際、右預金口座に固定資産税等を支払うに足りる残高があると信じたため、誤って領収印を押印してしまったが、右のように、その日に振替ができなかったため右領収印を消印したものと認められ、単なる事務処理の過誤であって、前記認定を左右するに足りる事情とはいえない。

2  原告咲子は、右固定資産税等の支払資金は全額が現金で森に交付された旨主張するが、<書証番号略>の取次明細表には、現金欄でなく振替欄に金額が表示されているのであり、右認定を覆して、右主張を認めるに足る証拠はない。

よって、本件不法行為の主張は理由がない。

五昭和六一年度分の固定資産税等の支払いをめぐる不法行為の主張について

1  <書証番号略>によれば、被告が、原告咲子と原告会社のために、昭和六一年度分の固定資産税等として合計六〇万四七四〇円を右原告らの預金口座から振り替えて納付したこと(右振替納付の点は争いがない)が認められ、他に原告らが現金で固定資産税等を支払ったと認めるに足る証拠はない。

2  原告は、領収印は現金払いをしたときにのみ押されるものであって、振込の際には押されないとして、昭和六一年度分の固定資産税等の納付資金を現金で交付していると主張する。しかし、領収印は支払いがあったことを示すために押されるものであり、現金支払いに限られず、振込であっても領収印が押されることは明らかであり(森証言及び<書証番号略>からも認められる)、原告の主張は採用できない。

よって、本件不法行為の主張は理由がない。

六無断定期預金口座開設の不法行為の主張について

1  <書証番号略>によれば、以下の事実が認められる。

(一) 森は、昭和六一年四月一五日付けで原告照茂の普通預金口座から一〇〇万円を引出し、これを振り替えて原告照茂の定期預金を設定した(この点は当事者間に争いがない)。

これによって、原告照茂の前記普通預金口座の残高は四〇万九六三一円のマイナスとなり、右マイナス状態が解消されたのは同月三〇日であった。当時のオーバーローンの利率は定期預金利率より年利にして0.25パーセント高かった。

(二) 原告会社代表者の原告照茂は、昭和六三年二月一二日、原告会社振出の一〇〇万円の小切手を吉田に交付し、吉田は、同日、右一〇〇万円を原告会社名義の定期預金とした(この点は当事者間に争いがない)。

これによって、原告会社の前記当座預金の残高は六二万四四四一円のマイナスとなり、右マイナス状態が解消されたのは同月一五日であった。当時の当座貸越の年利(一二パーセント)と定期預金利率(3.49パーセント)との差は年利にして8.51パーセントであった。

2  <書証番号略>によれば、原告照茂が、右各定期預金の設定を承諾したことが認められる。とくに<書証番号略>の小切手を自身で振り出しながら、その使途を確かめなかったとの原告照茂の供述は極めて不自然で、この点を含め、右承諾をしていないとする原告照茂の供述は信用できない。

しかし、森、吉田の各証言によっても、同人等が原告照茂に各定期預金に設定の承諾を求めた際に、普通預金や当座預金の残高がマイナスになり、いわゆる逆ザヤが発生することにつき十分な説明をしたとは認められないところ、いかに原告照茂と被告の関係が当時良好であり、損失そのものは多額でないとしても、損失を被ってまで被告担当者の定期預金獲得競争に協力したであろうとは思われず、原告照茂の右逆ザヤの事実を知れば、右各定期預金の設定に承諾しなかったであろうと推認される。

そして、右のように明らかな損失が生じる場合、金融機関の従業員には、預金者等に対し、その点について十分な説明を行う注意義務があると解されるから、右事実につき十分な説明を怠った森及び吉田には過失があると認められる。

3  右森及び吉田の行為により、原告照茂は、前記四〇万九六三一円に対し、四月一五日から同月三〇日までの前記年利差0.25パーセントの割合を乗じた額である四二円の損害を、原告会社は、前記六二万四四四一円に対し、二月一二日から同月一五日までの前記年利差8.51パーセントの割合を乗じた額である四三六円の損害を受けた。

4  右森及び吉田は、被告の事業の執行につき右損害を与えたものであるから、被告はこれにつき賠償責任があり、右不法行為に基づく原告らの主張は理由がある。

七預金の無断操作等の不法行為の主張(慰謝料の請求)について

1  前記第二当事者の主張六1(一)(1)(2)(3)の各口座振替がなされた事実は、当事者間に争いがないが、<書証番号略>及び吉田証言によれば、右各口座振替はすべて原告照茂及び原告会社の承諾のもとに行われたと認められ、右認定を左右すべき証拠はない。

なお、右振替には原告会社と原告照茂との間で行われているものがあるが、森、小倉、吉田の各証言、原告照茂、原告咲子の各供述によれば、原告らにおいては、店の売上げを一括して被告担当者に交付し、その中から原告らの指示により原告会社とその他の原告らの各預金等に振り分けて入金していたと認められるのであって、もともと会社と個人の金が厳然と区別されていたとは認められない。また、右(3)の振替は、定期預金の総合口座への移し替えにすぎない。したがって、いずれの処理にも不正と見なすべき事情は認められない。

2 原告らの預金等に係わる被告の事務処理には、前記三の定期積金の掛金受領に関する不手際、四の固定資産税等の領収印のミス、前記六の定期預金口座開設における過失のほか、受領書の署名押印の時点ではまだ金額が記入されていないことがあったこと(小倉証言)、印鑑が押されていないのに照合印が押されている受領書があること(森証言、<書証番号略>)、定期預金証書等原告らに引き渡されるべき証書が、正当な理由なく原告らに引き渡されないことがあったこと(吉田証言)など、不適切ないし雑な点があったことが認められる。事務処理に可能な限りの厳正さを期すべき金融機関として、反省すべき点が見られることは否定できず、被告を深く信頼して取引を継続してきた原告らが、一転して被告不信に陥ったことについては、被告にも責任の一端がないとはいえない(原告らの信頼に甘えて厳正さを欠いた面のあったことが窺われるが、これは弁解とはならない)。

3 しかし、原告らが本件において被告の不正行為等として主張した事実の殆どは、以上認定したとおり、原告らの誤解に基づくものであり、前記六を除き、被告の不適切な事務処理によって原告照茂と原告咲子が経済的に損失を受けたということはなく(六の不法行為も、その内容からみて、慰謝料の請求を相当とするものとは認められない)、金銭による慰謝を相当とする精神的損害を受けたとまではいえない。

よって、慰謝料の請求は理由がない。

八結論

以上によれば、本件各請求は、原告照茂が金四二円、原告会社が金四三六円を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余はいずれも失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条但書、仮執行宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官金築誠志 裁判官田中俊次 裁判官佐藤哲治)

別紙定期預金・定期積金目録<省略>

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